南北海道注目の食トピックス【水産】
1.南北海道の海のニューフェイス

海洋環境の変化がもたらす食彩王国の新たな主役たち
「イクラ」「サケ」「ホッケ」「サンマ」など、北海道の食文化を象徴してきた魚の不漁が叫ばれて久しい。しかし一方で、数年前まではなじみの薄かった「ニューフェイス」たちが次々と姿を現している。
筆頭は、海水温の上昇に伴い回遊ルートが北上し、今や北海道が全国屈指の水揚げ量を誇るまでになった「ブリ」だ。独自のブランド化が加速し、鮮度を活かした刺身はもちろん、ブリの出汁を活用したラーメンや、伝統的な調理法を現代風にアレンジしたメニューが続々と誕生している。
劇的な展開を見せているのは、オオズワイガニだ。数年前、噴火湾を中心に大発生した際は、小ぶりで身入りも不安定だったため、一匹100円で投げ売りされ、漁網を破る厄介者として忌み嫌われていた。しかし、丁寧な泥抜きと最適なボイル技術の確立といった地元の努力により、オオズワイガニは今や濃厚なミソが注目されるようになり、全国にファンを持つ高級食材へと変貌を遂げつつある。
また、近年水揚げが急増しているのはマフグである。高級魚として知られるトラフグに劣らぬ旨味を持ちながら、当初は活用が進まなかったが、自治体や関係団体の尽力により認知度が着実に高まっている。淡白ながら深い味わいを持つマフグは、和食のみならず洋食にも対応しても無限の可能性を秘めている。
続々現れる「新参者」。 戻ってきた伝統魚
かつては珍客だったサワラは、今や南北海道の秋の定置網にかかる常連になってきた。北上する過程でたっぷり蓄えられた脂は、炙ると濃厚な旨味が引き立つ。また、西日本など暖かい海に生息するタチウオも、まとまって獲れるようになって漁業関係者を驚かせた。高級魚では珍しい「焼き・煮付け」など多彩な調理で注目を集めており、地元の料理人たちによる新しいレシピ開発も活発に行われている。
「戻ってきた魚もいる」が、かつて豊漁を誇ったマイワシは、数十年の空白期間を経て再び北海道沿岸に押し寄せており、脂のりも良く、主力資源として期待されている。南北海道の海はかつてない多様性の時代を迎え、食卓をいっそう賑やかに彩ってくれるだろう。
2.南北海道で挑む持続可能な養殖業、完全養殖と地域カーボンニュートラル

キングサーモンとマコンブの完全養殖 。「函館マリカルチャープロジェクト」
豊かな海に囲まれた南北海道で、世界が注目する函館マリカルチャープロジェクトが動き出している。最高級の「キングサーモン」と、南北海道の宝であるマコンブの完全養殖技術を確立し、地域カーボンニュートラルを実現する挑戦である。かつて函館の漁業が経験したスルメイカの不漁など、漁業を取り巻く環境の変化は記録的なものとなっている。そこで、北海道大学、函館市、地元企業などが連携し、持続可能な漁業を目指したプロジェクトが始まった。主役の一つであるキングサーモンは、希少な高級魚だが日本では養殖技術が確立されていなかった。プロジェクトでは、北大の高度な循環型養殖技術と最新のAI・IoTを用いたモニタリングを活用した養殖に挑み、2025年には国内で初めて天然採卵に成功するなど、キングサーモンの完全養殖に成功した。
もう一つの柱が、天然物が激減しているマコンブだ。現在では天然コンブを母藻(ぼそう)として養殖しているが、養殖コンブを母藻とした完全養殖を実現することで、環境に負荷をかけずに安定した供給を可能にし、天然資源の創出にもつなげることを目指している。また、魚類養殖で排出されたCO₂を、養殖コンブが吸収することで、天然コンブが担ってきた役割を補完。地域全体として養殖業のカーボンニュートラルを達成する「地域カーボンニュートラル養殖」も目指しており、先進的な取り組みとして脚光を浴びている。
「獲る漁業」から「育てる漁業」へ。各地で広がる持続可能な取り組み
北海道では1972年から獲る漁業から育てる漁業への転換が本格化し、函館市のコンブ養殖、北斗市の人工礁を用いたフノリ養殖、噴火湾の耳吊り式によるホタテ養殖、七飯町の中間育成、マガレイやサケの稚魚放流など、着実に成果を上げてきた。
海洋環境の変化が著しい近年では、新たな取り組みが広がっている。鹿部町では、2022年からスジアオノリの陸上養殖を開始。天候に左右されず養殖でき、青のり品種の中でも最高級品とされるスジアオノリは、新たな道南の特産品として注目されている。
木古内町でのサクラマス養殖、奥尻町でのアワビ養殖、上ノ国町や八雲町、函館市でのトラウトサーモン養殖など、地域の特性を生かした取り組みも活発だ。新たな「育てる漁業」が、地域の柱となりつつある。



